かつて精神科では非告知投薬が当然のように行われていました。
非告知投薬とは、患者さんに病名を告げずに薬物を投与することです。
もちろん、非告知投薬が正当化される状況というのはあります。たとえば、精神科でなくとも、救急医療の現場では、意識が無い患者さんに投薬を含む処置が行われますし、また行われるべきでしょう。
精神科では、病識がない一部の疾患のある時期においては、非告知投薬をせざるをえません。幻覚や妄想に完全に支配されて興奮している統合失調症の急性期の患者さんや、自殺念慮が強いうつ病の患者さんなどがこれに当たるでしょう。
このような場合でも、一定の症状改善が得られれば、大多数の患者さんで病名の告知と、その疾患の治療のために必要な治療についてインフォームド・コンセントが得られます。
しかし、以前は、多くの精神科医が、ほとんどの患者さんに対して病名の告知をしませんでした。
今でもなお、告知をしない医師がいます。
彼らの言い分はこうです。
「患者やその家族は精神科の病気というものに畏れや偏見を抱いており、病名を告知すれば動揺するし、主治医に対して陰性感情を抱く。告知を強行しても、疾患を受容できないので治療を受け入れることもできず、怠薬や拒薬、通院の自己中断へと繋がる。これは結局は患者にとっての不利益である。したがって、患者の利益を最大化するために非告知投与は許容されるべきである」