専門用語を用いるならば,精神障害であることが,「絶対的欠格事項」から「相対的欠格事項」に格下げ(格上げ?)された,という言い方をすることができます。
すなわち,以前ならばいったん精神疾患にかかると有無を言わさず車の運転はできないと解釈されていたのが,現在では症状が十分に改善すれば欠格とは見做さないと,法律が柔軟に運用されるようになっているわけです。
確かに,車社会である現代日本において車の運転を禁じることは,患者さんたちの社会復帰の妨げとなりえます。
また現実的な問題として,わが国の精神科医療は長らく収容型・入院中心の治療政策をとってきた歴史的背景があるため,多くの精神科単科病院はかなり辺鄙な場所に建っています。車無しではそもそも患者さんたちが通院することすら困難という場合も少なくありません。
したがって道交法の柔軟な運用は大いに歓迎すべきことなのですが,そこにはまだ未解決の問題が残されています。
精神症状が十分に改善すれば患者さんたちは運転が出来るが,改善を得るためには薬物療法が不可欠であり,その薬物は車の運転に支障を及ぼす恐れがある,というパラドックスがそれです。
>>>精神科の患者さんの車の運転 ⑤
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