精神科の場合,患者さんの病気の症状を良くするためには(患者さんのためには,といった大それた表現はしません)薬を使いつつ適切なタイミングで社会参加を促していかなければならない場面が少なからずあります。
そうした局面において症状改善というリターンを得ようとするのであれば,リスクをとって添付文書の注意を無視せざるをえないこともあります。
問題なのはやはり現場の医者と患者さんが責任を被らなければならない制度と,自分たちがとっているリスクがどれだけのものなのか(向精神薬を服用することがどの程度運転に悪影響を及ぼすのか)が示されていないことでしょう。
かつて精神疾患の既往が自動車の運転の絶対的欠格事項から相対的欠格事項に格下げになった背景には,やはり精神疾患と交通事故の因果関係を証明する科学的なデータが無かったことと,患者さんたちの社会参加の機会を奪うべきではないという考えとがありました。
欧米に遅れをとってはいるものの新薬が治療の中心を占めるようになりつつある昨今,薬物療法と自動車の運転との関係についても改めて考察がなされるべきでしょう。
(この項終わり)
追補:このような判例を見るに,規定量の向精神薬を服用して車を運転することで法的責任を問われることはないのかもしれません。行政よりも司法のほうが法律を柔軟に解釈してくれるのでしょうか。