イーライリリー社は,他の非定型抗精神病薬に比べてオランザピン(ジプレキサ)は血糖上昇を引き起こすリスクがより高いことを初めて正式に認めましたが,そのメカニズムや,民族差に基づく日本人でのリスクについては言及していません。
炭水化物の摂取に応じてインシュリンを分泌し,血糖値をコントロールする膵臓の機能が欧米人に比べて劣る日本人では,ジプレキサがもつ血糖上昇という副作用が,より大きな意味をもっている可能性があります。
中長期的に用いられた場合に(ジプレキサを含む抗精神病薬は長期的に用いられる薬ですが)糖尿病を発症するリスクが高くなるかもしれませんし,糖尿病にまで至らずとも将来的な心血管系の疾患の発症リスクが上昇するのは既に述べた通りです。
要するに私が危惧しているのは,「やはりジプレキサは日本人にとっては危険なクスリでした」ということが,10年後や20年後になって明らかになることです。
実は私自身のジプレキサに対する評価は決して低いものではありません。
陽性症状のみならず陰性症状や認知機能障害の改善も得られ,錐体外路系の副作用が少ない,という点については,イーライリリー社が喧伝している通りでしょう。
しかし,短期的には良く効くが,20年後には心筋梗塞や脳卒中で患者さんがバタバタと亡くなる,という懸念があるクスリを積極的に使えるかというと,これは中々に究極の選択です。