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双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (3)

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「最近は躁鬱病が医療業界でもトピックになっていると書かれていましたが、どうしてですか?」というご質問をyoshiからいただきました。
理由は主に2つです。
①この疾患は診断が付くまでにかなりの時間がかかり,患者さんはその間に不適切な治療を受けて難治化してしまう。
②多くの精神科医のこの疾患の治療に関する理解度の低さのために,双極性障害(躁鬱病,躁うつ病)の診断がついてもなお,不適切な治療が続けられ,患者さんがますます難治化する。
これらの原因で患者さんのみならず社会が蒙る損失が莫大なものであることが近年わかってきたのです。

今日の記事はちょうど①に関連した部分です。
参考になれば幸いです。


%E3%83%91%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%AB_%283%29.jpg双極性障害_躁うつ病_躁鬱病_パキシル_躁転_神戸_精神科_心療内科2冊の本を通じて,たなか氏がまずうつ病と診断され,次に双極性障害(躁鬱病,躁うつ病)に診断が変わり,さらには境界性人格障害が併存症として加わる,という経過が描かれています。

最後の境界性人格障害についての議論は置いておくとして,たなか氏が双極性障害(躁鬱病,躁うつ病)と診断されるまでのくだりは,この病気の典型的な経過を非常によく捉えています。

双極性障害の患者さんが双極性障害と診断されるまでにかかる時間はどれくらいでしょう?

例えば,典型的なうつ病や統合失調症ならば,患者さんご本人を診察し,ご家族から情報を得られれば,初診で確定診断を下すことは難しくはありません。
診断に必要な時間が1時間を超えるということはないでしょう。

では双極性障害(躁鬱病,躁うつ病)の場合はどうか?
複数の研究が行われていますが,見解は概ね一致しています。
大雑把に言って,双極性障害の発症から確定診断までに要する時間は10年です。
10分でも10ヶ月でもなく,10年。

これは,現代精神医学の限界を端的に表す数字であると言えます。

 

こんなに時間がかかるのは,双極性障害が,横断面ではなく,縦断的な経過によってしか診断しえない疾患だからです。

ある瞬間の状態像ではなく,年単位で病状を見て初めて診断がつくということです。

実は双極性障害でもいわゆる一発診断ができることがあって,それは患者さんがいきなり躁状態で発症した場合です。

躁状態だけを持続的に,もしくは反復的に呈する「単極性躁病」は基本的には存在せず,躁状態を発症すればその後に遅かれ早かれうつ病相も認められるようになるということになっているので,それまでにうつ状態を呈したことがなくても,躁状態を呈すればそこで双極性障害の診断を付することができます。

ところが,躁状態で発症する患者さんは全体の2割程度に過ぎません。
大多数の患者さんは,初発時はうつ状態なのです。

この場合,患者さんはうつ病(うつ状態だけを持続的に,もしくは反復的に呈する「単極性うつ病」)と診断されます。

現在では,双極性障害のうつ状態と単極性うつ病は全く別の疾患であると考えられるようになっています。
しかしながら,両者を臨床的に区別する方法はありません。

そのため,双極性障害の患者さんの大半は「まず」うつ病と診断されます。
経過中に躁状態を発症して時点で初めて双極性障害に診断が変更されます。ここにいたるまでが数年かかるというわけです。

双極性障害_躁うつ病_躁鬱病_パキシル_躁転_神戸_精神科_心療内科たなか氏の場合はうつ病と診断されてパキシルによる薬物療法を受け,その経過中に躁状態を呈して双極性障害へと診断が変わりました。

よってこれは双極性障害の診断が下されるまでの典型的な経過と言えます(「躁になった時の状況を後々後悔してうつ状態に」なるというのは医学的には間違っていると思いますが,日常臨床で患者さんに対してなされる説明としては許容範囲内でしょう)。

そしてこの後の展開も。

双極性障害の診断に長い時間がかかることの一番の問題点はなんでしょうか?

それは,単極性障害の治療が双極性障害に対しては有害であることです。
双極性障害の患者さんは,診断が確定されるまでの10年間,益よりも害の方が大きい治療を受け続けなければならないのです。

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コメント (2)

私の疑問に答えてくださって、ありがとうございました。

躁鬱病は私もそう診断されて、大変興味があります。
ところで、そのうち、機会があればで結構なのですが、最初は躁状態で入院して、双極性障害1型と診断されて退院し、その後、幻覚、妄想、亜混迷状態が出たりして、統合失調症と診断が変わることはあるのでしょうか? 
いつでも結構ですので、機会があれば、お教え頂ければ幸いです。

いつも応援してます。頑張ってください。

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2008年08月07日 13:22に投稿されたエントリーのページです。

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