応援クリックよろしくお願いします→メンタルヘルスブログランキング 現在133位→
うつ病に対して第一選択で行われる薬物療法は,抗うつ薬の投与です。
この場合はうつ病は狭義のうつ病――単極性のうつ病のことです。
うつ病に対して抗うつ薬が有効であることについては,膨大な研究成果によって証明されているといってよいでしょう。
では,双極性障害(躁うつ病,躁鬱病)のうつ状態(双極性うつ病)に対してはどうでしょう。
ぱっと見だけでは単極性うつ病と区別がつかない双極性うつ病に対して,抗うつ薬は有効でしょうか?
YesともNoとも言えないのが現状です。
双極性うつ病のうつ状態はこれまで"neglected disorder(無視された病気)"であったと言われています。
双極性障害(躁うつ病,躁鬱病)の研究は躁状態を中心に行われ、近年までうつ状態については軽視されてきた傾向があります。
双極性うつ病に対しても,漠然と,単極性うつ病と同じ治療が行われてきました。
しかし最近になって精力的に行われてきた研究によって,双極性うつ病は単極性うつ病とは異なる戦略によって治療されなければならないことが示されてきています。
端的に言えば,抗うつ薬は――少なくとも抗うつ薬単独による治療は,双極性うつ病に対しては無効か,有効であったとしても害が大きいということが証明されています。
では,単極性のうつ病と同様に抗うつ薬単独での治療が双極性障害の患者さんに対して行われた場合,どのような害があるのでしょう?
「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」、「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」の両冊を通じて描かれているたなか氏の病状は,その「双極性障害の治療における抗うつ薬の害悪」を非常にうまく描写しています。
まず警戒しなければならないのは「急速交代化」です。
英語では"rapid cycling(ラピッド・サイクリング)"と言い,急速交代化が生じてしまった患者さんをラピッド・サイクラーと呼びます。
ラピッド・サイクリングは「1年の間に,躁状態とうつ状態が合わせて4回以上起こる状態」と定義され,予後不良のサインであることが知られています。
通常の双極性障害の場合,診断に10年を要することからも分かるように,躁状態やうつ状態がそれほど頻繁に現れるわけではありません。
何年に1度,という頻度なわけです。
ところが,抗うつ薬単独によって双極性うつ病の治療が行われた場合,この周期が短くなり,患者さんがラピッド・サイクラーになってしまうリスクが高まります。
ラピッド・サイクリングは,難治であるとともに,頻繁な病状の交代によって患者さんやその周囲の人々に多大な心理的・肉体的な負担をもたらします。
そして,いったん起こってしまった急速交代化を緩和させる手段を,現在の精神医学はもっていません。
「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」と「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」の記述からは,たなか氏が明らかにラピッド・サイクラーになってしまっていることが読み取れます。
双極性障害に抗うつ薬単独による治療を行うことのもう1つの害として、「混合状態」の誘発が挙げられます。
>>>双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (5)
>>>「メンタルクリニック.net」トップページへ
>>>「メンタルクリニック.mail」購読申込フォームへ