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双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (9)

双極性障害_躁うつ病_躁うつ病_パキシル_メンタルクリニック_精神安定剤うつに対しては、案の定というか、抗うつ薬が用いられています。

パキシルによる治療経過中に起こった躁転を機に双極性障害へと移行した患者さんなのでパキシルは使いづらいのかもしれませんが、実は数ある抗うつ薬の中で双極性障害のうつ状態への有効性と安全性がもっとも検討されているのはSSRI、なかでもとりわけパキシルです。

ただ、抗うつ薬に関しては相性もあるわけですし、大規模試験で好結果が出た薬が全ての患者さんに良い結果をもたらすわけでもありませんから、抗うつ薬のチョイスに関して多くを語るつもりはありません。

どのみち、十分量の気分安定薬によるベースの治療がなされていないかぎりは、どの抗うつ薬が用いられたとしても、百害あってようやく一利があるくらいです。

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2003年に双極性障害の権威が集まって行われた国際会議の結果から書き起こされた論文がJournal of Clinical Psychiatryという雑誌に掲載されていますが("International Consensus Group on Bipolar I Depression Treatment Guidelines" 2004 Apr;65(4):571-9)、この会議上、双極性障害のうつ状態に対する臨床医の意識が低く、抗うつ薬単独による治療が未だに広く行われていることがこの分野における国際的な問題であることが指摘されています。

 
双極性障害_躁うつ病_躁うつ病_パキシル_メンタルクリニック_精神安定剤したがって、たなか氏の主治医の知識レベルが特別低いというわけではなく、こうした治療はわが国でも広く行われ、そのために多くの患者さんたちが難治化している現状が予想されます。

そして不安が強まれば抗不安薬、不眠には睡眠薬、というように、とにかくひとつひとつの症状に対してコツコツと対症療法を積み重ねるというのがたなか氏の主治医の治療方針であるようです。

躁状態にセレネース、うつに対してはSNRI、不眠に対してはフェノバールやベゲタミンといった薬剤選択からは、たなか氏の主治医が原病の治療やたなか氏の長期予後に注意を払っていないことが伺われます(これらは、原病に悪さをしたり、遅発性ジスキネジアや依存症といった長期的な副作用を効率に引き起こしかねない薬ばかりです)。

さて、それではたなか氏の主治医はなぜ双極性障害の本来の病態である「気分の波」ではなく、躁とうつ、それらに付随する不安や不眠といった個々の症状を標的とした対症療法を繰り返すのでしょうか?


「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」では、何ヶ所かで、その理由を示唆する描写がなされています。

どうやらこれを見る限りは、たなか氏の主治医は特別な思惑があって気分安定薬を使っていないわけではなさそうです。

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他の薬は(それらが原病に有害無益である可能性があるのに)たなか氏の言うがままに処方する一方で、気分安定薬は求められているにも関わらず「飲んだらしんどいからなー」の一言で切って捨ててしまっています。

たなか氏が創作に関わる職業に就いているので、そのクリエイティビティを損ないかねない薬物の処方を控えているというのなら百歩譲って理解できますが(実際、たなか氏は「躁は絵にぶつけます」といっていますし。必ずしも良いこととは思いませんが)、それでは認知機能に悪影響を及ぼすセレネースやフェノバールを使っていることの説明がつきません。


結論としては、たなか氏によって描写された彼の言動を見る限り、この主治医は精神科薬物療法に関する基本的な知識が欠けているのだろうと思われます。

そしてこのような精神科医は、残念なことに決して少数派ではありません。

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コメント (1)

rai:

はじめまして。
私のyahooブログ記事ののトラックバックにこちらの記事が掲載されて訪れました。
私の主人が今年の4月末に単身赴任先でうつ状態に。現在の自宅に戻り入院。3週間後退院間も無く躁転。双極性感情障害と診断を受け、現在自宅で療養中です。
たなか氏の著書は私も読ませていただきました。
元々主人に病識を持ってもらう為に「解りやすい」本から…と思ったのですが、確かに「??」と私も主人も思う事が多かったです。
全体的にはマンガも有り、「大変解りやすい本」でしたが。

躁の時に抗うつ剤…。あってはならない事ですよね。
主人は現在気分安定薬(リーマス、デパケン)を中心にユーパン、グアゼパム錠を処方されています。
しばらく続いた軽躁状態も、今すっかりは落ち着いています。
本当にこの病気は「早期発見。早期治療」が大事なんだと…心から思うのです。

もっともっと、こちらのブログの認識が…広まってくれる事を祈ってやみません。
そうしたら、この病気で長い間苦しむ患者の方も減ると思うのです。支えるご家族の苦しみも。

これからも頑張ってください!
応援しております。

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2008年09月11日 21:27に投稿されたエントリーのページです。

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