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パキシルと性機能障害 アーカイブ

2007年05月20日

パキシルの,メジャーでマイナーな副作用 (1)

性機能障害,なのですが。

なんとなく最近,パキシルを服用している患者さんから性欲低下や射精障害の訴えが多いような気がしています。

とはいっても,性機能障害がセロトニン再取込阻害薬(SSRI)のありふれた副作用であることはもともと認識してはいたのですが……。
それでもやはり説明が行き届かないというか,処方時に説明を敬遠してしまいしがちな副作用なんですよね。

日本の風土として性の問題を臨床の場に持ち出すのは憚られるようなところがあるので,薬を飲んで性機能障害が生じたと感じても,患者さんの側から切り出してくることは稀です。
一方で米国では,SSRIの中止理由の筆頭が性機能障害であると聞いたことがあります。あちらでは,患者さんがこの手の問題を口にしやすく,医療者側もそれを受け入れる素地があるということでしょうか。


通常,性機能は欲求→興奮→オルガズムという段階を踏みますが,私の印象ではパキシルを含むSSRIはいずれの段階でも性機能を障害しうるようです。
つまり,性欲低下,性的興奮の障害(例えば,男性ならばEDなど),オルガズム障害(これもまあ,男性ならば射精障害など)のいずれも,副作用として起こりえます。

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2007年05月21日

パキシルの,メジャーでマイナーな副作用 (2)

抗うつ薬の副作用としての性機能障害が起こる頻度は,ある研究によれば約24%とされています。

この研究をまとめたウェブページがありますので,そのリンクをお示ししておきます。
「新規抗うつ薬使用患者における性機能障害の発現率」(Clayton AH,他)

話がややこしくなりますが,上記のページは「エビデンスレビュー 新規抗うつ薬使用患者の性機能障害の発現をどうとらえるか―」というページからのリンクです。
さらに,このページの元リンクをたどると「パキシル情報サイト Paxil.jp」というサイトにたどり着きます。これは,パキシルの販売元であるグラクソ・スミスクライン株式会社(GSK)が運営するウェブサイトです。

脱線を承知で説明するならば,「新規抗うつ薬使用患者における性機能障害の発現率」のレビューを自社のサイトに乗せたGSKの意図は,パキシルの副作用としての性機能障害への注意を喚起することではありません。
彼らが言いたいのは「エビデンスレビュー 新規抗うつ薬使用患者の性機能障害の発現をどうとらえるか―」の見出しにもなっている「SSRI間で有意差なし」でしょう。

パキシルによる性機能障害が業界で注目を集めた時期があって,これはその火消しのための対応といったところでしょうか。
外資系の製薬会社はこういうやり方がお好きなようで,ジプレキサのイーライリリー社も体重増加や血糖・脂質の上昇といった代謝系副作用が問題になったときに,「ジプレキサだけでなく非定型抗精神病薬全体の問題である」とか,「統合失調症患者ではそもそも糖尿病リスクが高い」といったキャンペーンを張っていたような記憶があります。

ただ,個人的にはこういった,「悪いのは俺だけじゃない」式の開き直り的対応は好きではありません。
薬に副作用があること自体は不可避なのですから,製薬会社は,他社の製品はさておいて,自社製品が適正に使用されるよう心を砕くべきなのではないでしょうか。

私も,性機能障害がパキシル固有の問題だとは思いませんが,使用頻度が高いために性機能障害を含む副作用に遭遇する機会が多いのは確かです。
売れる薬を製造・販売している会社は,相応の責任が生じると心得るべきでしょう。

GSKの場合,他のSSRIとパキシルとの間で性機能障害に関するリスクが同等であることを主張する根拠にClaytonらの研究結果を利用するのであれば,パキシルの添付文書においてもこの研究で示された24%という数字を採用して,処方医の注意を喚起すべきです。

しかしながら実際にはGSKは添付文書では,治験のデータに基づいてパキシルによる性機能障害の頻度は1%未満であると謳っています。

これでは,ダブルスダンダードだと批判されても仕方がありません。

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パキシルの,メジャーでマイナーな副作用 (2)

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2007年05月27日

パキシルの,メジャーでマイナーな副作用 (3)

実は,パキシルを含むセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)によって性機能障害が生じる確率は24%どころではないという報告もあります。

Journal of Clinical Psychiatryという雑誌の62巻(2001年)に掲載されているMontejoらの研究によると,パキシルで70%,ジェイゾロフトで62.9%,ルボックスで62.3%の確率で性機能障害を生じさせることが示されています。

パキシルで治療した患者さんの7割に性機能障害が生じているというのは,日本人精神科医の感覚からすればやや突飛な話のようにさえ思われます。
しかし,「SSRIで多くの患者さんに性機能障害が起こる」というのは,どうやら欧米では常識となっている事実のようです(欧米ではパキシルの添付文書にその旨が記されています)。

日本人だけがこの副作用に特別抵抗力があるということはなさそうなので,わが国においてこの副作用が看過されているのは,日本人の国民性や精神科医の側の怠慢,そして製薬会社の確信犯的な情報隠しの結果であると考えるべきでしょう。

治療を自己中断してしまう患者さんは一定数いますが,そういった患者さんの何割かは,性機能障害を苦にして服薬コンプライアンスが悪化しているのかもしれません。

うつ病では,治療中断が最悪の場合は自殺に繋がります。
病気の症状を取り除くだけではなく,患者さんのQOLを向上させることがこれからの精神医学の目標になっていくとも言われています。

そうしたことを考え合わせると,副作用に関するインフォームド・コンセントや,副作用が起こった場合の対処に関して,われわれ精神科医はもっと敏感になるべきでしょう。

パキシルと性機能障害の問題は,そうしたことを考える端緒となるような気がします。

(この項終わり)

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2007年08月03日

パキシルの,メジャーでマイナーな副作用:補足

以前に書いた,「パキシルの,メジャーでマイナーな副作用 (1)」のコメント欄に,先日コロさんからご質問をいただきました。

個人的にも興味があったので少し調べてみたのですが,これはなかなかの難問のようです。
結論から申し上げると,私が調べたかぎりでは,パキシル(パロキセチン)によって生じた射精障害が,パキシル中止後どれくらいの期間で改善するかを確認した研究はないようです。

コロさんの場合,コメントでいただいた情報からすると,前後関係からしてパキシルによって射精障害が生じた可能性は高いと思います。

SSRIによる性機能障害は用量依存性であるようなので,中止ではなく減量でも射精障害が改善する可能性もありますが,パキシルが原疾患(うつ病なのでしょうか?)にものすごく有効であったということでもなければ,まあ私なら中止しますかね。

ただ判断が難しいのは,副作用は服用後まもなく発現する一方で,効果発現には数週間を要する点です。
パキシルを,どのくらいの用量,どれくらいの期間服用されたのかはわかりませんが,本当の意味でリスクとベネフィットを秤にかけられるのは十分量・十分期間を服用した後です。
しかし性機能障害の場合は耐性はほとんど生じない(飲んでいるうちに身体が慣れて自然解消するということがない)副作用なので,有効であっても中止,というのはありうる選択肢です。

パキシルは半減期が長く,向精神薬は一般的に脂溶性が高いので,身体から抜けるのには一定の時間を要します。
これには肝機能や体脂肪率が影響するので,個人差があって,一概にこれくらいという数字を示すのは難しいですね。

あまり役に立つアドバイスができなくて申し訳ありません。

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